
108円が100円になる魔法?「0%」の皮肉な計算
吾輩は牛である。今日も牧場の隅で、二足歩行の人間たちがスーパーのチラシを握りしめて「消費税がなくなれば……」と夢想しているのを眺めている。彼らが「8%」や「10%」という数字にこれほどまで翻弄されるのは、実に滑稽だ。
高市総理が提案しているのは、**「食品の消費税を2年間ゼロにする」**というものだ。現在、人間たちが口にするものの多くには「軽減税率」という名の8%の税金がかかっている。108円の牛乳を買うとき、8円は国という名の巨大な胃袋に吸い込まれているわけだ。これが「0%」になれば、レジで払うお金はそのまま商品の本体価格、つまり100円になる。
だが、冷静に考えたまえ。8円安くなったからといって、人間たちの胃袋が大きくなるわけではない。むしろ、安くなった分でもう一品余計に買う(需要が増える)ことで、かえって品不足になり、商品の値段そのものが上がってしまう「インフレーション」という名の熱病を招く可能性もある。吾輩たち牛が、草がタダになったからと狂ったように食べ続ければ、牧場はあっという間に荒れ地になるのと同じ理屈だ。
人間たちは「安くなる」という果実だけを見ているが、経済という名の複雑な反芻(はんすう)プロセスにおいては、どこかで減った数字は、必ずどこかで補わなければならない。この「0%」という魔法が、単なる「先送り」という名の毒薬でないことを、吾輩は祈るばかりである。
【シミュレーション】吾輩の同族と食卓の価格
では、具体的に諸君の家庭でどれほどのお金が浮くのか、計算してみよう。ある「標準的な4人家族」が1ヶ月に使う食費を約10万円と仮定する。この中には、吾輩の仲間の恵みである牛乳や、小麦の化身であるパン、そして……ああ、考えるのも恐ろしいが、吾輩の親戚かもしれない牛肉も含まれている。
| 商品名(例) | 現在の価格(税込8%) | 0%になった時の価格 | 浮くお金 |
| 明治 おいしい牛乳 (900ml) | 約280円 | 約259円 | 21円 |
| 超熟 6枚スライス (食パン) | 約210円 | 約194円 | 16円 |
| 国産和牛 肩ロース (100g) | 約980円 | 約907円 | 73円 |
| コカ・コーラ (1.5L) | 約190円 | 約176円 | 14円 |
| ポテトチップス うすしお味 | 約160円 | 約148円 | 12円 |
1ヶ月の食費合計が100,000円(税込)の場合:
- 現在払っている税金: 約7,407円
- 0%になった場合: 0円
- 1ヶ月で浮くお金: 約7,407円
どうだ、驚いたか? 1ヶ月で約7,500円、1年で約9万円ものお金が浮く計算になる。これだけあれば、中学生の諸君なら新しいゲームソフトや、お洒落な服が買えるだろう。親たちは「家計が助かる!」と小躍りするに違いない。だが、この「浮いたお金」は、本来なら道路を直したり、君たちの教科書を作ったり、おじいちゃんやおばあちゃんの病院代になるはずだったお金だ。それが消えるということは、牧場の柵が壊れても直すお金がなくなる、という未来を暗示しているのだ。
「財源」という名の消えた牧草を探して
さて、ここで賢明な諸君なら疑問に思うはずだ。「消えた7,407円はどこへ行くのか?」と。高市総理は「特例公債(国の借金)には頼らない」と言っている。補助金の見直しや、税金の無駄遣いをカットして捻出すると主張しているわけだ。
だが、ブルームバーグの記事にある通り、市場の人間たちは「本当にそんなことができるのか?」と疑っている。もし、カットできる無駄が十分になければ、結局は国が借金をしてその穴を埋めることになる。
【吾輩の考察】
人間は「今の自分」を助けるために、「未来の自分」からお金を借りる。これを「積極財政」という立派な言葉で包んでいるが、牛の世界で言えば、来年食べるはずの干し草を、まだ芽も出ていないうちに食べてしまうようなものだ。
もし借金が増え続ければ、日本の「信用」が落ちる。すると「円」の価値が下がり(円安)、外国から輸入する小麦やガソリンの値段がさらに上がってしまう。税金が0%になって喜んでいたら、商品の元々の値段が20%上がっていた……なんていう、笑えない喜劇が待ち受けているかもしれない。経済とは、常に「あちらを立てればこちらが立たず」という、四つの胃袋を調整するような難しさがあるのだ。
マーケットが突きつける「冷たい現実」
最後に、なぜ投資家たちが「消費税0%」という甘い言葉に震えているのかを解説しよう。彼らは「国家の財布(財政)」が破綻することを何より恐れている。
高市総理が「検討を加速させる」と曖昧な言い方をしているうちは、期待で株価が上がる(高市トレード)。しかし、いざ「本当にやるぞ、財源は後回しだ」となれば、日本の国債は売られ、金利が跳ね上がる。金利が上がるということは、君たちの親が銀行から借りている住宅ローンの返済額が増えたり、企業が新しい工場を建てるのを諦めたりすることを意味する。
- 政治家の論理: 「税金を安くすれば、みんなが喜んで私に投票してくれる。景気も良くなるはずだ!」
- 投資家の論理: 「収入を減らして借金を増やすような国の株は、怖くて持っていられない。さっさと売って逃げよう。」
この二つの論理が、今まさに総選挙という舞台でぶつかり合っている。高市総理の人気は高いが、彼女が背負っているのは「1200兆円を超える国の借金」という巨大な荷物だ。消費税を0%にするという「大盤振る舞い」が、日本という牧場を再生させる特効薬になるのか、それとも最後の一押しとなって牧場を崩壊させるのか。
吾輩は、ただ静かに反芻しながら、人間たちが「0%」という数字の裏側に隠された、重い重い「責任」の重さにいつ気づくのかを観察している。まあ、諸君らはとりあえず、浮いたお金で何を買うか夢想しているのが、一番幸せなのかもしれぬがな。
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