
円安という名の「底なし沼」と、0%税率の不思議な関係
吾輩は牛である。近頃、人間たちが「円安(えんやす)」という言葉を口にするたび、まるでおいしい牧草が遠くへ流されていくような、妙に寂しい顔をするのが気になっておった。
高市総理が「消費税を0%にする」と言い出したことは、確かに人間たちには甘い蜜のように聞こえるだろう。だが、経済という名の巨大な生き物は、一筋縄ではいかぬ。税金をタダにするということは、国の収入が減るということだ。すると世界中の投資家という名の鋭い目を持つ人間たちが、「日本という国はお金がなくなって大丈夫か?」と疑い始める。
日本への信頼が揺らぐと、日本のお金である「円」を売り、アメリカの「ドル」を買う動きが強まる。これが「円安」を加速させる正体だ。現在、1ドル=159円台という、吾輩の尻尾も震えるような円安が進んでいる。税金が0%になっても、円自体の価値が下がってしまえば、海外から入ってくるものの値段は勝手に跳ね上がる。つまり、入り口(税金)で得をしたつもりが、出口(商品の元値)で大損をするという、実に皮肉な「底なし沼」が待っているのである。
iPhoneシミュレーション:消えた10%と、膨らんだ元値の怪
さて、中学生諸君が喉から手が出るほど欲しがっている「iPhone」を例に、具体的な算数をしてみよう。iPhoneのような精密機械は、海の向こうからドルで買ってくるものだ。
仮に、新型のiPhone Proの価格が $1,000(1000ドル)だったとしよう。
【シミュレーション:1ドル=140円(少し前の円安)の時】
$1,000 \times 140 = 140,000\text{円(本体)}$
これに消費税10%がかかると、
$140,000 \times 1.1 = 154,000\text{円}$
【シミュレーション:1ドル=160円(今進んでいる円安)+消費税0%の時】
$1,000 \times 160 = 160,000\text{円(本体)}$
消費税は0%なので、支払う額はそのまま、
$160,000\text{円}$
気づいたかな? 税金が10%から0%に消えてなくなったというのに、支払う金額は 6,000円も高く なっている。これぞ、円安という魔物の仕業である。「税金がなくなってラッキー!」と小躍りして店に駆け込んだら、店員から「円安なので値上げしました」と言われる悲喜劇。人間たちの計算高さも、この魔物の前では、吾輩が鼻を鳴らす程度の力しかないのである。
海外旅行シミュレーション:ハワイのパンケーキは雲の上の存在に
次に、家族でハワイ旅行に行く場合を考えてみよう。飛行機代やホテル代、現地で食べるパンケーキも、すべてドルの世界だ。
家族4人で $10,000(1万ドル)使う旅を想像したまえ。
【1ドル=140円の時】
$$10,000 \times 140 = 1,400,000\text{円}$$
【1ドル=160円の時】
$$10,000 \times 160 = 1,600,000\text{円}$$
その差はなんと 20万円。これだけの差があれば、日本で最高級の霜降り肉をどれだけ食べられることか……ああ、吾輩の仲間を食べる話はよそう。とにかく、国内で消費税が0%になったところで、海外旅行のこの巨大な値上がりをカバーすることは到底できぬ。
さらに、現地のレストランで食べる30ドルのパンケーキを計算してみるがいい。1ドル160円なら 4,800円 だ。中学生のお小遣いなど、一口で溶けてしまう。日本国内で税金が安くなって浮いたお金など、空港を一歩出た瞬間に、強い西風に吹かれる綿毛のように消えてしまうのが現実なのだ。
牛が教える「二兎を追うものは一兎をも得ず」の教訓
今回の高市総理の「解散と0%減税」のニュースをまとめると、吾輩にはこう見える。人間たちは「国内の景気」という兎(うさぎ)を捕まえようとして、必死に網を投げている。だがその隙に、「世界からの信頼」という名の別の兎が、柵の外へと逃げ出そうとしているのだ。
消費税0%は、確かに目の前の人間に笑顔をもたらす。しかし、その代償として「円安」という副作用が強く出れば、iPhoneも、ガソリンも、パンも、すべてが値上がりする。これを人間たちは「悪い円安による物価高」と呼んで恐れている。
【今回のシミュレーションのまとめ】
- iPhone: 税金0%でも、円安のせいで結局高くなる可能性大。
- 海外旅行: 減税の恩恵よりも、円安のダメージの方が圧倒的に大きい。
- 生活全体: 輸入品(エネルギーや食料)が値上がりし、減税分が相殺されてしまうリスクがある。
吾輩たち牛は、与えられた草を黙々と反芻するだけだが、人間たちは「税金ゼロ」という数字の魔法に惑わされ、その裏にある「円の価値」という冷酷な現実に目を背けがちだ。諸君、選挙の結果が出る2月8日、そしてその後の円相場の動きを、吾輩と一緒にじっと見守ろうではないか。数字の表面だけを見て喜ぶのは、まだ早いかもしれぬぞ。
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