吾輩の主人はバカンスの初日に鰻重の「ぞろ芽」@目白で自分を甘やかす

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ウナギの看板見るとテンションMax

主人は朝からそわそわしており、何やら自分へのご褒美とやらを考えているようであった。吾輩が見るところ、人間というものは節目節目で自らを甘やかす習性があるらしい。そして主人が選んだご褒美とは、目白にある「ぞろ芽」という鰻屋での食事であった。実を言うと、吾輩も鰻重は大好物である。あの甘辛いタレと、ふっくらとした鰻の身の組み合わせは、牛である吾輩をして舌鼓を打たしめるのである。

主人がこの店を選んだ理由は、以前から耳にしていた評判にあった。目白界隈で鰻と言えばぞろ芽、というのが通の間では常識らしい。特に関東風の蒸しの技法に定評があり、老舗の風格を保ちながらも親しみやすい店構えが魅力だと、主人の知人が力説していたのを覚えている。また、使用している調味料にもこだわりがあると聞いていた。

この店の特徴はずばり、静岡県焼津市産のブランド鰻「共水うなぎ」を生産者から直接仕入れ、常に提供している数少ない店舗であるのだ。流通量が少ない「幻のうなぎ」とも呼ばれている。
調理法こだわりがあり、伝統的な関東風「蒸してから焼く」調理、3度付け焼きのタレにも、軽減した技術などでふっくら柔らかく仕上げているということらしい。

さて、いよいよ当日である。目白駅を降りると、確かに看板が目に入る。

駅降りてすぐに看板

駅から歩くこと僅か一分、実に便利な立地である。主人と吾輩が店の前に立つと、こじんまりとした佇まいながら、歴史を感じさせる重厚な雰囲気が漂っている。

店内に足を踏み入れると、平日の午後一時を回ったところということもあり、先客は僅か二組のみであった。一部は午後二時で閉店するということなので、この時間帯ならばこんなものであろう。

吾輩と主人は四人席に案内された。店員の方は牛である吾輩を見て些か驚いたようであったが、すぐに慣れた様子で丁寧に対応してくれた。

主人は迷うことなく鰻重の上を注文した。値段は四千八百円である。決して安くはないが、この日ばかりは主人も奮発する気であったのだろう。

まず最初に出されたのは、よく冷えた緑茶である。この季節にはありがたい心遣いである。主人は一口飲むと、「うむ、良い茶だ」と呟いた。吾輩も一舐めしてみたが、確かに品の良い苦味と香りが口の中に広がった。

鰻重を待つ間、主人は遠い目をして窓の外を眺めていた。長年勤めた職場での思い出が次々と蘇ってくるのであろう。時に微笑み、時に少し寂しそうな表情を浮かべる主人を見ていると、人間という生き物の感情の豊かさを改めて感じるのである。

やがて運ばれてきた鰻重は、見た目にも美しく、香りも申し分ない。蓋を開けると、艶やかなタレに包まれた鰻が、ふっくらとした白米の上に整然と並んでいる。

ついに来たぞ!!

主人は一口食べると、「これは旨い」と声を上げた。

吾輩も少し分けてもらったが、確かに絶品である。関東風の蒸しが効いており、身は驚くほど柔らかく、それでいて鰻本来の旨味がしっかりと残っている。タレも甘すぎず辛すぎず、絶妙な塩梅である。

肝吸いも秀逸であった。肝の苦味とダシの旨味が見事に調和し、鰻重との相性も抜群である。主人は「この肝吸いだけでも価値がある」と満足そうに呟いていた。

だが、何やら不愉快な音が聞こえてくる。はて、一体なんだ?と思ったが刹那、隣の中年男女のテーブルの女性の方がクチャラーであった。オーマイガー!

食事が進むにつれ、主人は蘊蓄を語り始めた。「この店はみりんに愛櫻を使っているんだ」と、得意そうに説明する。愛櫻とは老舗の醸造元が作る高級みりんで、鰻のタレには欠かせない調味料だという。たれのベースとして「濃口醤油」と「煮切ったみりん」を使い、「3年熟成と1年熟成」のみりんを掛け合わせてコクとゆっくりを出している。

確かに、このタレの奥深い甘味は、そうした上質な材料あってこそのものであろう。主人の蘊蓄は止まることを知らず、鰻の産地から調理法、果ては江戸時代の鰻文化まで、延々と語り続けるのであった。

食後には温かいほうじ茶が供された。冷たい緑茶で始まり、温かいほうじ茶で終わるという心遣いが嬉しい。ほうじ茶の香ばしい香りが、鰻の余韻を優しく包み込んでくれる。

主人は最後まで満足そうに食事を楽しんでいた。職場を離れる寂しさもあったであろうが、この美味しい鰻重が少しでも慰めになったのなら幸いである。

帰り際、主人は「また来よう」と呟いていた。確かに、この店は再訪したくなる魅力がある。こじんまりとした店構えながら、料理への真摯な姿勢と温かいもてなしの心が感じられる、実に好感の持てる店であった。

吾輩もまた、主人と共にこの店を訪れることができれば幸いである。鰻重の美味しさもさることながら、主人の新たな門出を祝う記念すべき食事として、この日のことは長く記憶に残ることであろう。

人生の節目には、やはり美味しいものを食べるに限る。これは牛である吾輩にも通じる真理である。

投稿者プロフィール

モウモウ
モウモウ大富豪になっても結局食と旅
吾輩は牛である。 名はモウモウである。 なんでも自由ヶ丘というハイカラな街のきらびやかなショーウィンドーの中でもうもう泣いていたことだけはとんと記憶している。

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