先日、主人のやつが突然、「モウモウよ、たまには非日常感溢れるオシャレな空間で、ラグジュアリーな午前のカフェタイムとやらを過ごしてみたいものだ」などと、普段の彼からは想像もつかぬことを言い出した。聞けば、なんでも「スターバックス リザーブ ロースタリー 東京」なる、スタバの中でも特別な店があるという。普段はドトールばかりで満足しておるくせに、一体どういう風の吹き回しであろうか。しかし、この手の突拍子もない発言こそが主人の真骨頂である。
私は、もしや混雑しておるのではないかと危惧したが、主人は「平日の午前なら大丈夫だろう」と、妙な自信を見せておった。かくして、我々は、主人による「非日常的でラグジュアリーな午前のカフェタイム」とやらを体験するため、中目黒へと向かうことと相成ったのである。

巨大なカフェ空間への誘い
平日の午前九時、我々は中目黒に到着した。改札を出て、主人の後を追うように目黒川沿いを歩くこと十五分。やがて目の前に現れたのは、まるで異世界への入り口のような、巨大な建物であった。その威容たるや、ただのカフェと呼ぶにはあまりにも雄大である。木材をふんだんに使った外観は、周囲の街並みとは一線を画し、まさに「非日常感」を醸し出しておる。

一歩足を踏み入れると、そこはまさに別世界であった。天井はどこまでも高く、開放感に満ち溢れている。しかし、その広大な空間を埋め尽くすほどの人の多さに、私は思わず目を丸くした。平日の午前だというのに、これほどまでに人がいるとは。しかも、日本人ばかりではない。耳を澄ませば、様々な国の言葉が飛び交い、まるで国際会議場にでも迷い込んだかのような錯覚に陥る。

主人のやつも、この人の多さと、どこからどう手をつけて良いのか分からぬ複雑な空間に、明らかに戸惑いを隠せない様子であった。普段はドトールの画一的なレジで慣れておるため、勝手が違うのは当然であろう。私は内心、彼の困惑する姿を面白おかしく眺めておった。

ロースタリーの迷宮と、意外なメニューの落とし穴
幸い、近くにいたスタッフが我々を見かねてか、親切に館内を案内してくれた。 「一階はカフェメニュー、二階は紅茶メニュー、三階はアルコールメニューでございます。四階は…」 主人はその説明に、普段の仕事中さながらに熱心に耳を傾けておった。

どうやら四階は「アムール」というイベントスペース兼コーヒーセミナーのフロアであるらしい。しかも、どのフロアで注文しても、館内のどこでも好きな場所で飲んで良いというではないか。これには主人の目も輝いておった。
さて、何を注文するかである。主人は事前に下調べをしておったようで、念願の「シナモンラテのホット」を注文しようとしたのだが、スタッフから「申し訳ございません、こちらは冬限定のメニューでして…」と告げられ、主人の顔には落胆の色が浮かんだ。しかし、すぐに気を取り直し、別のメニューを検討し始めた。
一階:コーヒーの祭典、そして主人の決断
我々はまず、一階のカフェフロアへと向かった。入ってすぐ目に飛び込んでくるのは、巨大なロースターである。

コーヒー豆が焙煎される香ばしい香りが店内に満ち、まさに五感を刺激する空間であった。壁には、コーヒー豆が入った巨大な樽がずらりと並び、まるで工場見学に来たかのようである。ガラス張りの向こうでは、バリスタたちが手際よくコーヒーを淹れており、その真剣な眼差しには職人の魂を感じる。

主人は、予め決めていたという「バレルド アイスコーヒー」をオーダーした。価格は驚きの千五百円である。スタッフは、デキャンタのような洒落た容器に入ったコーヒーと、大きな氷の塊が入ったグラスを渡し、丁寧に飲み方を説明してくれた。

「こちらのコーヒーは、ワインを熟成する樽で熟成された豆を使用しております。アルコールは入っておりませんが、独特の風味をお楽しみいただけます。氷に少しずつ注ぎながら、ゆっくりと香りをお楽しみください。」
なるほど、バレルとはそういう意味であるか。それにしてもコーヒー一杯に千五百円とは、我輩には理解できぬ価格設定である。主人のやつも「コーヒーに千五百円は痛いけど、もしかしたらもう二度と来ないかもしれないから、これは記念だな」などと、自分を正当化するような独り言を呟いておった。人間の性とは、斯様なものか。しかし、この空間の非日常感を考えれば、それもまた一興なのかもしれない。
インスタ映えの嵐と、主人の思索
一階で注文を終え、我々は店内の様々なフロアを見て回ることにした。この店は、どこを切り取っても絵になる「インスタ映え」する仕掛けが山盛りである。巨大なロースターは言うに及ばず、コーヒー豆を運ぶパイプが天井を縦横無尽に走り、まるでアート作品のようである。コーヒー器具が美しく陳列された棚、店内に置かれた個性的な家具、そして何よりも、窓から差し込む光が、この空間を一層幻想的に見せている。写真を撮るだけでも三十分はかかりそうな勢いである。

主人は、注文したバレルド アイスコーヒーを片手に、窓際の席に腰を下ろした。グラスには、透き通るような大きな氷の塊が入り、そこにチビチビとコーヒーを注ぎながら、ゆっくりと味わっておる。その表情は、まさに「理想通りラグジュアリーな午前を過ごしている」といった様子である。私は、主人の満足げな顔を見て、内心ホッとしたものである。

その間、主人はスマートフォンを取り出し、誰かに長文のLINEを打っておる。普段は簡潔なメッセージしか送らぬくせに、一体誰に何を語りかけているのであろうか。私はこっそり覗き見たが、画面にはびっしりと文字が並んでおり、どうやら今日の体験を熱く語っているようであった。その後は、持参した「集中投資に関する書物」を読みふけっておった。コーヒーを味わい、誰かとコミュニケーションを取り、そして知識を吸収する。主人のラグジュアリーな午前は、実に多角的である。
二階:紅茶とカクテルの世界
続いて二階へ。このフロアは「TEAVANA BAR」と名付けられ、紅茶に特化した空間である。様々な種類の茶葉がディスプレイされ、まるで香水瓶のように美しく並んでおる。ここでも、専門のバリスタが紅茶を丁寧に淹れており、コーヒーとはまた違った、優雅な雰囲気が漂っている。天井からは巨大な茶筒のようなオブジェが吊り下げられ、空間を彩る。紅茶の香りがふわりと漂い、心落ち着く空間であった。

三階:大人のアルコール体験
三階は「ARRIVIAMO BAR」と名付けられたアルコールを提供するフロアである。ここには、コーヒーを使ったカクテルや、ビール、ワインなどが楽しめるバーカウンターが設置されておる。昼間にもかかわらず、グラスを傾ける人々がちらほら見られ、まさに大人のための空間といった趣である。暖炉のようなオブジェもあり、夜には一層ムーディーな雰囲気を醸し出すのであろう。
四階:アムールの神秘
そして四階。ここは「AMU TOKYO」という名の、コーヒーセミナーやイベントが開催されるフロアである。私たちが訪れたときは特にイベントは開催されていなかったが、広々とした空間には、プロジェクターやスクリーンが設置されており、コーヒーに関する様々な学びの場として活用されているようである。まさにコーヒーの奥深さを追求する、知的好奇心を満たすための空間であった。
旅は続く、次の目的地は…
大満足の様子の主人。しかし、今日の休日はまだまだ時間が残っておる。彼は時計をちらりと見やり、何かを思案する素振りを見せておった。散々悩んだ末に、突然「そうだ、モウモウよ、横須賀に軍艦を見に行こうではないか!」などと、まるで自分は天才かと言わんばかりの勢いで私の肩を叩きながら言い放った。
やれやれ、主人の気まぐれにはほとほと困ったものである。これだけ歩き回り、そしてまた別の場所へ連れ回されるこっちの身にもなって欲しい。しかし、これもまた、主人の旅のスタイルというものであろう。横須賀での珍道中の詳細は、また後日改めてお伝えすることにしよう。
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