夕刻迫る浜松町。ビルの谷間に沈みかけた太陽が、国道沿いのアスファルトを金色に染めている。大門駅から歩いて数分、芝増上寺の静寂を背に、吾輩と主人は一軒のカフェへと向かっていた。
その名も「ル・パン・コティディアン 芝公園店」。ベルギー発祥のベーカリーレストランらしい。国道沿いにありながら、外観はどこかヨーロッパの街角を思わせる。テラス席も実にお洒落で、都会の喧騒を忘れさせる雰囲気が漂っている。

主人はペットとして吾輩を連れてきたのだが、テラス席を選ぼうとしていた。だが、汗だくの自分の状態に気づいた瞬間、あっさりと店内へと方向転換。どうやら「お洒落なカフェで涼しく過ごす」という欲望が、ペットとの共存よりも勝ったようだ。吾輩は黙って従う。人間とは、時に自己中心的な生き物である。
店内に入ると、天井が高く、間接照明が柔らかく空間を包み込む。木の温もりと白壁のコントラストが、まるで北欧のリビングのようだ。主人は「デートにもってこいだな」と悦に入っている。だが、今はペットと一緒。デートの相手は吾輩である。人間の妄想力には、時に敬意を表したくなる。

席に着くと、主人はこのカフェのうんちくを語り始める。「オーガニック小麦を使っていて、ベルギーでは朝食の定番なんだ」と。吾輩はラテアートのハートを見つめながら、都会の夏の夕刻を静かに楽しんでいた。ラテアートホットは¥750。高価だが、ハートの形が完璧だったので、値段以上の価値がある…かもしれない。

周囲を見渡すと、女子高生の集団が楽しそうに談笑している。ファーストフードではなく、こんな高級カフェに来るとは、なかなかブルジョワジーな学生たちだ。制服姿でラテを飲む彼女たちは、まるで映画のワンシーンのよう。吾輩は、彼女たちの未来に少しだけ期待を抱いた。
一人で来ている者もちらほら見かける。ノートパソコンを広げて仕事をしている者、読書に没頭している者、ただぼんやりと窓の外を眺めている者。人間は、こうしてお金と時間をかけて、期せずして「下見」を兼ねてお茶をする生き物らしい。誰かとの未来のために、今を味わう。実に複雑だ。

主人はラテを飲みながら、またうんちくを語る。「この店は食べログの百名店にも選ばれていて…」と。吾輩はその言葉を聞き流しながら、ハートのラテを少しずつ飲み干す。都会の夕刻は、こうして静かに過ぎていく。
このカフェは、ただの飲食店ではない。これは、都会の喧騒と人間の欲望が交差する場所。汗だくの主人と、ハートのラテを飲む吾輩。女子高生のブルジョワ感と、一人客の孤独。すべてが混ざり合い、ひとつの風景を作り出している。
もしあなたが、都会の夕刻に少しだけ余裕を持ちたいと思ったなら、このカフェはおすすめだ。ラテのハートが、あなたの心にも小さな余白を与えてくれるかもしれない。
投稿者プロフィール

- 大富豪になっても結局食と旅
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吾輩は牛である。 名はモウモウである。 なんでも自由ヶ丘というハイカラな街のきらびやかなショーウィンドーの中でもうもう泣いていたことだけはとんと記憶している。
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