B級グルメの【富士宮やきそば】を食べるためだけに、わざわざ東京から富士宮まで行った話

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目次

プロローグ

人間どもは、なぜこれほどまでに自らを苛むのか。 ある日の夕刻、我がご主人、普段から思いつきと感情の波だけで動いている人間が、鼻孔を荒くしながら吾輩の耳元でこう呟いた。

ご主人

なぁ、モウモウ。最近、旅に行っていないじゃないか。なんだか正体不明のストレスに襲われている。近場でパーッと気分を晴らしたいんだ

この一言で、我が週末の静寂は唐突に砕け散った。 旅行と聞けば、人間はすぐさま絢爛豪華な温泉旅館や、絶景の観光地を思い浮かべるのが常である。しかし、我がご主人の脳内回路は往々にしてショートを起こしている。「気分転換」と称して提示されたその計画は、観光地を巡るでもなく、温泉に身を浸すでもなく、ただ「B級グルメを食すためだけに、往復の電車代と貴重な休日を投げ打って往復する」という、あまりにもストイックかつ修行じみた日帰り行脚であった。

吾輩は「それは気分転換ではなく、ただ自らを痛めつけに行く疲労の買い出しである」と教え諭すべく、喉の奥から重厚な深いため息を漏らした。 しかし、天然由来の無神経さを誇るご主人は、我が溜息など春風の如く受け流し、いそいそとカバンに荷物を詰め込んでいる。やれやれ。牛の身でありながら、我が苦難の道連れはこうして始まったのである。

1. 富士宮へ向かう衝動:なぜ「やきそば」なのか

我がご主人が、数ある選択肢の中から「富士宮」という地名を指指した理由は至極単純であった。 「本場の富士宮やきそばを、一度でいいから現地で食べてみたい」

ただそれだけである。 世の中には「富士宮やきそば」なる、B級グルメ界の頂点に君臨する名物があるという。もちもちとした独特の麺に、削り粉の風味が舞うという噂の品だ。東京のスーパーで買えるパック麺では満足できず、「現地の空気を吸いながら食わねば真の理解には至らない」などと、ご主人は知った風な口をきく。

わざわざ時間をかけて現地へ赴くこと自体が目的化している。目的と手段が美しいまでに逆転した、典型的な現代人の奇行である。吾輩はただ黙って、ご主人の後ろをついて歩くしかなかった。

2. 鉄の箱に揺られて東京からの過酷なアクセス

東京からの道のりは、決して「近場」などという軽い言葉で片付けられるものではなかった。

まず、小田原駅にて熱海行きの東海道線に乗り込む。週末の列車内は、どことなく浮かれた行楽客の熱気に満ちており、ご主人と吾輩の重苦しい「武者修行感」とは明らかな温度差が存在していた。

熱海からは別の東海道線浜松行きに乗り換える。車窓に駿河湾の青がチラつくなか、電車は黙々と東海道を西へと進む。

そして「富士駅」に到着。ここから、ローカル線たる「JR身延線(みのぶせん)」へと乗り換えるのである。東海道線と身延線は同じような車両にみえる。 身延線に揺られること約二十分。

車窓の風景は急速に田園と山あいの色彩を強めていき、ついに我々は「富士宮駅」へと降り立った。

ちなみに

身延線に乗車した際、ご主人はパニックに陥った。 「な、なんだこの料金システムは…! 一番先頭にバスのような運賃箱があるぞ!?」 ワンマン列車の乗車・降車システムが理解できず、無駄に挙動不審になるご主人。都会の自動改札に慣れきった人間の愚かさが露呈した瞬間であった。

「着いたぞ、モウモウ!」と歓声をあげるご主人。しかし吾輩の胃袋は、長時間の振動により既に第一胃から第四胃までシェイクされ、すっかりグロッキー状態であった。

3. 富士宮という街の風景――観光名所5選の冷徹な考察

富士宮に到着した我々は、まず街の構造を把握すべく足を運んだ。ご主人が「観光も少しは…」と未練がましくスマートフォンで検索した、富士宮の主要スポット(? )5選が以下である。

  1. 富士山本宮浅間大社(ふじさんほんぐうせんげんたいしゃ) 全国の浅間神社の総本宮。富士山をご神体とし、境内の湧玉池(わくだまいけ)は澄み切った富士の湧き水で満たされている。歴史と威厳に満ちた、文句なしの聖地である。
  2. お宮横丁(おみやよこちょう) 浅間大社の目と鼻の先にある、レトロな雰囲気を醸し出した飲食街。富士宮やきそばのアンテナショップや甘味処が密集しており、観光客が引き寄せられるブラックホールの如き場所である。
  3. 富士山世界遺産センター 逆さ富士を模した斬新な建築美を誇る施設。富士山の歴史や自然を学べるハイテクな空間であり、静けさを求める知的探索には打ってつけの場所である。
  4. イオンモール富士宮 駅の目と鼻の先に鎮座する巨大な現代文明の要塞。地方都市において最も活気があり、生活のすべてが完結する、ある意味で最も現実的な「現代の名所」である。
  5. 白糸の滝(しらいとのたき) 絹糸を垂らしたかのような美しい名勝……なのだが、駅からバスで数十分かかるため、今回のストイックな旅日程からは即座に脱落した幻の名所である。

4. 富士宮グルメの探求:お勧め名店5選と「FUJIBOKU」の悲劇

富士宮は焼きそばの街であると同時に、豊かな湧き水と富士の恵みに育まれたグルメの街でもある。調査によれば、以下の5店がこの地の誇る名店として挙げられる。

  1. FUJIBOKU(フジボク) ブランド豚「ルイビ豚(ルイビトン)」を惜しみなく使用した、豚肉料理と焼きそばの最高峰とされるカフェレストラン。我がご主人が第一目標として掲げていた聖地。
  2. 富士宮やきそばアンテナショップ お宮横丁内に位置し、富士宮やきそば学会が直営する、まさに「基本のキ」を味わえる王道の店。
  3. うるおいてい 特製もちもち麺と、秘伝のタレ、そして目の前の鉄板で焼き上げるパフォーマンスで爆発的な人気を誇る行列店。
  4. お好み食堂 伊東 地元民に長年愛される老舗。焼きそばに豚肉やイカ、桜えびなどがどっさりと入った「五目焼きそば」や「しぐれ焼き」が絶品と評される。
  5. すぎ本 富士宮やきそば学会の重鎮が手掛ける店。蒸し麺のコシと、香ばしいソースのバランスが計算し尽くされた玄人好みの名店。

我がご主人の目的は、何と言っても①の「FUJIBOKU」であった。「ルイビ豚の旨味あふれる焼きそばで、日頃のストレスを肉の脂で洗い流すのだ」と鼻息を荒くしていた。

しかし、現実はいつだって惨めである。 東京からの慣れない乗り継ぎと、身延線の緩やかなダイヤに翻弄され、我々が「FUJIBOKU」の店頭に辿り着いた時には、時刻は既に15時近くになろうとしていた。

扉には、無慈悲な「準備中」あるいは「営業終了」の札が掲げられていた。 「……しまっている」 呆然と立ち尽くすご主人の姿は、餌を奪われた哀れな野良犬のようであった。わざわざ遠出をして、狙いのお店に振られる。これぞ無計画な日帰り旅の醍醐味(という名の悲劇)である。

5. 顛末と考察:ただ焼きそばを食べて帰るという修行

本来の計画では、富士宮で腹を満たした後に「沼津深海水族館」へと足を伸ばし、シーラカンスの冷凍標本でも眺めて知的好奇心を満たす予定であった。しかし、15時の時点で時間的余裕は完全に霧散した。沼津行きは断念せざるを得ない。

「富士宮は、思ったよりも遠かった……」 ご主人は呟いた。当たり前の事実である。東京から地方のローカル線を乗り継ぐ道のりを甘く見ていたのだ。

途方に暮れた我々は、トボトボとお宮横丁へ引き返し、「富士宮やきそばアンテナショップ」へと身を寄せた。もはや選り好みを言っている場合ではない。

カウンターでオジちゃんに「富士宮やきそば(並)下さい」と言い¥700を支払う。 呼び出しを待つ間、席を探すが、お宮横丁内のベンチや椅子には限りがある。混み合う店内で見知らぬ観光客に「相席よろしいですか」と声をかける勇気など、小心者のご主人にはあるはずもない。席の空き状況を虎視眈々と狙う、虚しい目線バトルが繰り広げられた。

やがて運ばれてきた焼きそばを手に入れ、奇跡的に空いたベンチへと滑り込む。

「げっこうかめんが美味そうだなぁ」 ご主人が意味不明な感慨を漏らした(おそらく、器に躍るノスタルジックなキャラクターか何かのビジュアルに感化されたのだろう)。

一口食す。 コシの強すぎる麺。噛み応えはまるでゴムのようでありながら、噛むほどに小麦の風味が染み出す。そして、全体に振りかけられた魚粉(いわしの削り粉)と、油脂の旨味を凝縮した「肉かす」が、独特の香ばしさを醸し出している。なるほど、ただの焼きそばとは一線を画す「異国のB級グルメ」である。


ご主人は無言で麺を掻き込んだ。5分で完食。 食事が終われば、この街に留まる理由はもう何一つなかった。

帰路、富士宮の商店街を歩いたが、立ち並ぶ店舗の多くは固くシャッターを下ろし、まるでゴーストタウンのような静けさが漂っていた。富士宮駅へと戻っても、駅構内には旅情を掻き立てるようなお土産コーナーすら見当たらず、寂涼感が胸を刺す。

結局のところ、我々は「ただわざわざ電車賃と時間をかけて富士宮まで行き、わずか数分で焼きそばを平らげ、そのまま帰ってきた」だけに終わったのである。

だが、最後に小さなドラマがあった。 途中乗り換えの小田原駅にて、ご主人は突然立ち止まり、駅の売店で富士山柄の小さなマグネットを購入した。

「旅の記念だ。サッカー好きの写真家・Paya氏が旅先でマグネットを集めているのを見てな、俺たちも今回から収集することにしたのだ。今日がその記念すべき第一日目だ!」

ご主人は満足そうに笑っていた。 ボロボロになり、何一つ観光もせず、ただB級グルメを食べて帰ってきただけの虚無な一日。しかし、その手の中に握られた小さなマグネットだけが、我々が富士宮の土を踏んだ唯一の証拠となったのである。

ただし、マグネットは小田原と書かれた提灯ではあったが・・・

6. 広域・駿河エリアの厳選お土産5選

富士宮駅で土産を買い損ねた哀れな我々のように路頭に迷わぬよう、沼津・三島・富士を含む広域エリアでの「外さないお土産5選」を、吾輩の備忘録として記しておこう。

  1. 田子の月もなか(田子の月) 富士山の湧き水を使用し、香ばしい皮の中に自家製餡とお餅が入った逸品。富士・富士宮エリアを代表する老舗の味である。
  2. 福太郎(三嶋大社) 三島が誇る縁起餅。やわらかなよもぎ餅を、烏帽子(えぼし)の形に見立てた上品なこし餡で包んだ名物である。
  3. 沼津深海プリン(沼津深海プリン工房) 沼津港の名物。駿河湾の深海をイメージした鮮やかなブルーのラムネジュレが載った、映えと味を両立したプリンである。
  4. 桜えびの舞(フジノネ) 駿河湾産の桜えびを丸ごと贅沢に使用した香ばしいおせんべい。酒の肴にも最高とされる旨味の塊である。
  5. わさびオイルふりかけ アヒージョタイプ(山本食品) 三島・天城産のわさびを使用し、オリーブオイルと醤油を合わせた万能調味料。ご飯にもパスタにも合う逸品である。

吾輩は牛である。名はモウモウ。 家に帰り着き、自分のベッドに倒れ込むご主人を見下ろしながら、吾輩は再び深い溜息をついた。

人間の「ストレス解消」とは、なんと非効率で、なんと滑稽な儀式なのだろう。しかし、あの苦い顔をして焼きそばをすすり、小田原で小さなマグネットを嬉しそうに眺めていたご主人の横顔を思い返すと、この不条理な旅もそれほど悪くはなかったのかもしれぬ。


四つの胃袋の底で、今日の焼きそばの魚粉の香りをそっと反芻しながら、吾輩は静かに目を閉じるのであった。

投稿者プロフィール

モウモウ
モウモウ大富豪になっても結局食と旅
吾輩は牛である。 名はモウモウである。 なんでも自由ヶ丘というハイカラな街のきらびやかなショーウィンドーの中でもうもう泣いていたことだけはとんと記憶している。

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