
10月2日。人類がまた一つ、新たな炭水化物の誘惑を世に放った。
その名も「ごちそうスープパスタ」。通称、ごちスパ
「スパゲッティーのパンチョ」から生まれた新ブランドの1号店が代々木に誕生したというので、「ラーメン探究者」であるマロン君を連れて足を運んだ。
マロン君本日はスープパスタの探訪を楽しみにしておりました
午後6時30分。新店狂騒曲が鳴り響いているかと思いきや、店頭の待ち客はわずか3組。行列とは人気の証なのか、それとも「並んでいるから並ぶ」という集団心理の証なのか。吾輩には分からない。ただ、牛は草があれば並ばない。
店頭ではスタッフがチラシを配り、店内は明るく元気な接客。新装開店初日の店というものは、新品の靴で歩いているような初々しさがある。
そこでスタッフから言われた言葉は



ここはキャッシュレスですが、大丈夫ですか?
何?現金主義、拝金主義の吾輩はとまどった。何とかPayとかPasmoなどの交通系ICでの支払いだけというのは横暴なのではないか?しかしよくよく話を聞いてみると納得できた



昨今の現金離れのせいで銀行の支店がどんどん潰れていて、両替ができないんです。なのでキャッシュレス化になるのは必然の流れなんですよ
時代の隆盛とは諸行無常の極めなのであろうか。吾輩達は静かに頷くばかりだ。ということで諸君らがこの店に行くときにはPayを携えて行くのを強く推奨する。っていうかそれしかないのだ。後ろに並んでいる人にもキャッシュレスを説明しているが、誰一人として えっ!?って顔をしているものはいなかった。恐らくこの日面食らったのは吾輩だけであろうことは容易に想像できた。
【ごちスパ 代々木店】
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 店名 | ごちそうスープパスタ 代々木店 |
| オープン | 2026年10月2日 |
| 運営 | 株式会社パンチョ |
| 業態 | スープパスタ専門店 |
| 席数 | 25席(カウンター9席・テーブル16席) |
| 営業時間 | 11:00~23:00(L.O.22:30) |
| 定休日 | 年末年始 |
| 最寄り | 代々木駅西口 徒歩1分 |
| 看板メニュー | 欲望のスープスパ |
| 通常価格 | 1,529円(税込) |
この店の特徴は、パンチョが培ってきた麺とソースの開発ノウハウをスープパスタに転用し、スープ、麺、具材、フォカッチャまで含めて「ごちそう」に仕立てた点にある。スープパスタは全11種類。食べ進める中でのスープの濃度や温度の変化まで考えているという。
つまりこれは、麺をスープに浸しただけの料理ではない。「最後まで食わせる」という人類の執念を、液体化した料理なのだ。駅から徒歩1分。駅を出る。一分歩く。ごちスパ。これは意思決定ではない。導線である。
しかも、この向こう三軒両隣がすごい。
ごちとん


曾さんのでっかい餃子


ごちスパ。JBsバーガー。グルメストリートかと思いきや、これはもう胃袋の暴力場である。誘惑が一軒ごとに肩を組んで待ち構えているのだから、理性に勝ち目はない。
そこへマロン君が、背筋を伸ばして口を開いた。



モウモウさん、ひとつ申し上げてもよろしいでしょうか。私は普段、ラーメンの探求を生業としております。スープこそ料理の魂であると、常々考えてまいりました。それゆえ、スープパスタという存在を軽んじてはいけないと思うのです。本日は、一人の探求者として、真摯に味わわせていただきます
ラーメンの探求者が、ラーメン屋の暖簾ではなくパスタ屋の扉の前で襟を正している。その生真面目さは、麺類という広大な連邦の中で、国境を越えるための通行証なのかもしれない。
店内はこじんまりとしたカウンター席だが2階もあるようだ。階段が急勾配だ
ちなみに、10月2日から8日までは看板メニューなど3品が200円引きとなるオープニングキャンペーンも実施されている。







「食べてみようかな」という迷いに、200円引きを添えてダメ押しという烙印を押される。人間の欲望とは、なんと精巧に設計されているのだろう
我々はカウンター席についた。目の前にはガーリック、チリ、ハーブなどの味変装置がずらりと並ぶ。胡椒なども万端だ。


注文はQRコードから行う。最近はどこに行ってもこればかりだ。スマホを持っていないものは大変な時代になったものだ。


マロン君は「本日は濃厚トマトの旨辛ボンゴレをいただきます」と丁寧に注文した。吾輩は、看板の「欲望のスープスパ」だ。名前がすでに正直すぎる。「特製トマトスープパスタ」などと名乗ればいいものを、「欲望」と言い切るのだ。料理に欲望と名付けた時点で、食べる側に逃げ道はない。
厨房から、ガーリックの香りが漂ってくる。理性とは、にんにくの前では実に脆いものだ。まずはマロン君のボンゴレが運ばれてきた。


そしてついに吾輩の欲望のパスタも『着丼ドーンだ!!』


トマトの赤を基調としたスープの海に、長いパスタが沈み、あさりや挽肉が顔を覗かせる。そこににんにく。さらに唐辛子。食べる前から、胃袋だけが先に就業を開始している。


スープは燃えるような赤で鼻孔の先にガーリックやらチーズやらの香りが感じられる。


そして麺だ。恐らくはスープに合うように計算され尽くしたパスタの麺を使っているのだろう。スープパスタなので食感があっさりに感じるのは仕方ないが、その分スープはこれでもかと言わんばかりの濃厚さだ。企業の計算づくの戦略が垣間見られる瞬間だ。


マロン君は、まずスープだけを静かに口へ運んだ。



…いやはや、失礼いたします。ズズッ… うむ、トマトの酸味の奥に、挽肉のコクと、あさりや魚介の旨みが重なっております。そして、この甘みと発酵感は西京味噌でしょうか。さらに牛乳のまろやかさが全体を包み込んでおります。複数の旨みが衝突せず、一つのスープとして成立している。これは、非常に緻密な設計です。感服しました。
吾輩は黙って、その解説を聞いていた。



牛乳?吾輩は牛である。まさか自分の存在を、こんなところで液体として再確認することになるとは。牛乳は牧場では牧歌的な存在だった。それがこの皿の中では、味噌と手を組み、トマトや魚介と肩を組み、にんにくや唐辛子まで従えてスクラムを組んでいる。もはや牧歌ではない。牛乳の武装蜂起である
マロン君は続けた。



パンチョが、食べ進める中でのスープの濃度や温度の変化まで考えていらっしゃるというお話にも、実際にいただいて納得いたしました。一口目と最後の一口とでは、同じスープでも表情が違うのです。ラーメンの探求者として、これは学ぶべき点だと感じます
料理とは不思議なものだ。最初の一口は味覚への挨拶。二口目からは交渉。そして最後は、胃袋との全面戦争である。マロン君は戦場でも、礼儀正しく敬礼しているように見える。
さらに、この店にはフォカッチャがある。ランチタイムには店内で焼き上げたものがおかわり自由。いまは夜なので、それは次回の楽しみとしておこう。そして食べ終えたあとには、残ったスープで作る「〆のチーズリゾット」まで用意されているという。
つまりこの店は、スープを残させない。パスタを食べ、スープを飲み、最後はリゾットで締める。一杯の料理が何段階にも進化するその姿は、料理というより、炭水化物の出世街道である。
【ごちスパの小さな歴史】
| 時期 | FACT |
|---|---|
| 2024年 | 「スパゲッティーのパンチョ」の一部店舗でスープパスタを導入 |
| 2026年10月2日 | 「ごちそうスープパスタ」1号店を代々木にオープン |
女性やファミリー層を中心にスープパスタの利用が広がったことが、専門店展開の背景にあるという。つまり、今日突然生まれた店ではない。試し、育て、そして独立させた。料理にも人生にも、試作期間は必要らしい。
食べ終えると、マロン君は箸を置き、深々と頭を下げた。
「ごちそうさまでございました。本日は、スープの奥深さを再認識いたしました」
秋の夜風が心地よい。だが、吾輩の腹だけはまだ夏である。
代々木駅へ向かいながら考える。



「ごちそう」とは何だろう。高級食材のことか。高い値段のことか。いや、もしかすると、食べ終えたあとに「今日はここに来てよかった」と思えること。それこそが、ごちそうなのかもしれない
……まあ、吾輩の場合は「食べすぎた。明日から草に戻ろう」という反省も、セットで付いてくるのだが。
人間は欲望に名前を付け、その欲望をスープにして提供する。吾輩はそれを食べる。実に哲学的である。そして、実に腹いっぱいである。
今夜の吾輩は、少しだけ人間の欲望を理解した。理解しただけで、止めることはできなかった。
投稿者プロフィール


- 大富豪になっても結局食と旅
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吾輩は牛である。 名はモウモウである。 なんでも自由ヶ丘というハイカラな街のきらびやかなショーウィンドーの中でもうもう泣いていたことだけはとんと記憶している。
もっと詳細が知りたいもの好きなあなたはプロフィール欄の記事を読んで欲しい




